あの頃はずっと、自分の弱さに辟易していた。
煌めくネオンに圧倒されていた。
自分より強いやつが世界にはたくさんいた。
そんなやつらに負けていることを認めたくなくて目を背けていた。
自分の弱さにさえ向き合えない自分は吐きそうなほど惨めだった。
17歳の大晦日、年上の友人とレンタカーで初詣へ行こうとしていた。
奴が借りたレンタカーだった。
俺はクソ生意気にも友人が借りたレンタカーを無免許で運転していた。
もちろん、そんなに運転が上手いわけでは無い。
街灯も無い田舎の田んぼの中を通る細い舗装道路。
道路の端はよく見えず、田んぼとの境界がどれほどかも知らず、何より車幅の感覚もつかんでいない17歳。
いきなり操作不能になる車…
車の片輪が溝にはまり、そのまま車が傾いたままブレーキも利かないまま高速で前進する。

そう、車が傾いているからタイヤが接地していないのだ。
為す術も無く高速で進む車。
時間の流れが急激にスローモーションになり、高速に対応できるようになる瞬間。
しかし、この時はその時間は恐怖を増幅させる以外に何の効果もなかった。
ハンドルが一切効かない車の運転席に乗り、時間だけがスローモーションで流れる。
地獄へのベルトコンベアーに乗る気分だ・・・
その瞬間、車が跳ねて左へ飛ぶ。
側溝に金属板が置いてあった。
横の空き地への橋だった。
直後・・・左のタイヤだけにテンションがかかり、車は急速に左へ曲がって跳びはねる。
左手にはガードレール。
車のレフトサイドにガードレースが突き刺さると同時に、反動で逆サイドへ高速で滑り出す。
同時に車の右サイドへガードレールが突き刺さる。
車は縦にへしゃげて停車する。
Googleで「大事故」というキーワードで画像検索しても、表示されないほど車は縦に潰されて停止する。
大晦日に生じたこの1年間の集大成。
俺たちは、この1年間の悪事に思いを馳せて、当然の報いだとつぶやきながら家に帰った。
プロローグ
身体をしこたま打って家に帰った俺たちは、1年の集大成である大晦日に起きたこの事故によって、この1年間自分たちが犯した罪の深さを知った。
全身を打撲したため、身体中が痛くてまさにボロボロだった。
しかし、俺たちには希望があった。
今日は大晦日だ。
今年の精算の意味で事故を起こしたのだろう。
しかし、今からでも初詣へ行ってこの不幸を取り除こう。
ここで初詣へ行くことを辞めると、この不幸が続くような気がしたんだ。
地獄
俺は高校を中退していた。
偏差値30代前半のバカしかいない高校だった。
俺は、中学では一切の宿題・テスト勉強をせず、授業でも寝ていた俺だが、全国模試では県全体で上位5%に常に入っていた。
しかし、家庭の都合でバカしかいない学校へ・・・
そこから荒れた。
盗み、喧嘩、タタキ…荒れる日々・・・
高校を辞めて1年・・・
そんなとき起きた事故だった。
今年はむちゃくちゃ悪いことをたくさんしたししゃーないやろ。
まーこれでみそぎも済んだな。
なんて言いながら、全身打撲の身体を引きずって初詣に向かう俺たち。
暇つぶしで犯罪を繰り返した1年だった。
片っ端から盗む。
道で金を巻き上げる。
オヤジ狩りなんて言葉も無いあの頃に、大阪の街で大暴れする日々。
俺らが道でおっさんをしばいて金を取ろうとしていたら止めてきたおっさんもいた。
「あ?お前が代わりになんのか、オラァ」
控えめに言って狂っている。
バチなんて当たり足りないはずだが、さすがに年末にガッツリ事故った俺としては、これが最後だと自分勝手に確信していた。
いや、そんなことを言いながらも、何も考えていなかったのかも知れない。
地獄への入口
電灯もない辛うじて舗装された細い道を神社へ向かって歩く。
20分ぐらいか?
事故で全身打撲の身体を引きずって歩く。
なんとか神社に辿り着いた俺たちは、形だけの参拝をすませる。
すると・・・
以前、揉めたやつらとたまたま出会う。
まぁどこでも揉めるわな。
サシだったら負けないと思っていたし、数人いるぐらいで頭を下げてやり過ごすぐらいなら、端から喧嘩なんかしていないだろう。
俺は地元だけど、中学が違うので地元という場所ではない。
俺も若いし退けないと思っていた。
裏へ行くぞって話になった。
今思うと、なんで人混みの中で殴り合わなかったんだろう。
「おらぁ、お前らの都合なんか知るか。」
なんて言って、いきなり殴った方が良かった。
その方が圧倒的優位に立てるし、そのうち誰かが止めに入る。
次に道で会っても、向こうも一服するだろう。
でも、俺たちはビビっていたんだ…多分。
15対2
できたら勘弁して欲しい。
そういう気持ちが先に来たのかも知れない。
冷静な判断力を失っていた。
どう考えても神社の境内でやる方が有利に決まっている。
しかし、俺たちは己の弱さに負けて、そのチャンスを失った。
修羅の入口
裏山へ招待された俺たちは、15対2でフルボッコにされた。
実際、俺は弱かった。
そして、何よりダメだったのが、そこで泣きを入れたことだ。
泣きを入れたことで、俺の中で何かが壊れた。
当然だけど、泣きを入れたぐらいで赦されることなんて、この世の中ではそれほど多くは存在しない。
泣きを入れた後に残るのは後悔ぐらいだ。
何が辛いって、自分が泣きを入れた事実と、その上でフルボッコにされたことだ。
抵抗して殴り返しても、横から別のパンチが飛んでくる。
それもこれも、俺らが黙ってついてきた罰だった。
そのうちに倒れて、ひたすら蹴りを食らうことになった。
30分か…1時間か…
もうええだけボッコボコにされた俺たちは帰途につく。
口からは反省しかでない。
負ける悔しさ…
弱さの代償…
勇気の欠如…
恐怖への敗北…
何一つポジティブな結果はない。
俺は弱いくせに強気で、揉めたら退く糞だったわけだ。
その事実が俺に覆い被さる。
15対2とか正味関係ないわ。
単に俺が弱い。
そのことだけを知った新年だった。
そして修羅の道へ
学んだことがある。
所詮、人は勝たねば意味がないのだ。
そして、負けた場合のリスクヘッジはもっと重要だ。
また、いきなり殴りつける強さ…喧嘩するやつが全員強い訳じゃない。
半数以上は、俺より弱いくせに流れに流されて喧嘩している。
相手の言うことに流されない。
いきなり、襲撃する。
予想もつかない方法を用いる。
必要以上に厳しく攻める。
弱いやつを各個撃破する。
あとで、道で会ったやつを個別で殴り倒したときに、俺は学んだことが正しいことを確信した。
人は弱い。
多数で勝っても、あとで個人で会った時に何回でも徹底して殴られることを学べば、そいつは多数いても攻めてこなくなる。
数人相手なら行く。
弱いやつを徹底して殴る。
そして、仲間にはそいつを守る力が無いことを徹底して教える。

これを繰り返すと、段々と俺と喧嘩するやつの人数が減る。
誰も弱いやつを守る能力は無いし、サシで会う度に殴られるし、それは大勢で殴り倒しても変わることは少ない。
変わることは、殴られる数が増えることぐらいだ。
そして、俺は自分の弱さと戦う日々が始まった。
Written by TheCriminal.


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